上野義道ホームページ-気持ちを整理する

責任と罪

ニュースは、朝夕新聞を読み、テレビを見ているわれわれの誰にも届く。破産する地方自治体が現れ、原子力発電所の杜撰な管理が発覚し、ラテンアメリカで新しい大統領が選ばれ、企業が決算を粉飾する。プロ野球チームがルール違反で選手獲得に走り、公共工事受注に談合が横行し、中東で殺戮が繰返され、いろいろな場所でさまざまないじめある。東南アジアで天災が続き、家庭が崩壊し、若者に職がなく、人口がじりじりと減少しているなど、我々は毎日ニュースを通じていやおうなしに、複雑さを増す自分の外の世界（いわゆる世間）と関わりを持つ｡

このように自分の外の世界が矛盾し、複雑になればなるほど、人々はその受止め方を単純化し、そこに逃げ込むことで自己防衛を図るようだ｡
最近ことあるごとに「責任と罪」が（この２つの観点からだけ）声高に叫ばれるのは、この傾向を反映しているのではないだろうか？毎週のように、さまざまな不祥事が追求される。ただその「責任と罪」の追求があまりに画一的なことと、どう見てもいち早く忘れられてしまうのは、どこかに「構造的欠陥｣があるのではないかと思わざるを得ない。こうした「構造的欠陥｣を、「責任と罪」を追求される側よりも、追求する側の問題として考えるのも、意味があるのではではないだろうか。

外の世界と同じように、個人の日常生活の中にも矛盾する複雑さはある｡ただその複雑さは、一人の人間に吸収消化されることによって、その人独自の一貫性を持つ｡それが人それぞれの一生なのだろう｡ところが現代人の多くは、その矛盾する複雑さから眼をそむけ、一貫性を保つことを無意識のうちに放棄しているように見える｡その代りに、ものごとを損得・善悪の二極に断片化した思想や生活、周りの出来事をつまみ食いする風潮などが見られる｡

我々は少なくとも、時間や金銭の管理をはじめとする自分の行動に責任があるのではなかろうか？そして、常軌を逸した場合には、それを己に対する罪として、償いを策するそのことが、その人の行動の自主性を保証するのではなかろうか？自分の行為に責任を負い、罪を自分に課してそれに服するのは、独立した人格を持つ者の特権なのではないか？
われわれには、所与として現代を支配している政治や経済以上に、われわれの行動に深い影を落している、自我、義理人情、気まぐれや熱狂、嗜好、好悪、人性の複雑さなどにもっと目を向けることが求められてよいのではなかろうか？