上野義道ホームページ-気持ちを整理する

他の人との距離

ひとは多分４、５歳頃、つまり小学校に入る前後から、自分と自分以外の人は違うのだと気づく。つまりいわゆる自我が芽生えるのである。そして自分と自分以外の人との間には間隔があるのだと気づき、その頃から世間一般に言う、人付き合いが始まる。自分と自分以外の人との間隔に気づいた日から今日まで、私たちはそれを意識しながら自分の周りの人々に接している。この相手との間にある間隔は距離と呼んでもよいだろう。この距離は何メートルとか何センチというはっきりしたものではなくて、せいぜい近いとか遠いとか漠然と.思っている－と言うより、むしろ感じているもののようだ。

こうした他の人との距離は、当然その相手一人ひとりと自分との関係によって、（1）家族、（2）親しい友人や知人、（3）利害関係のある相手、それに（4）見知らぬ人、つまり行きずりの人で赤の他人という風に違った区分がされる。こうした区分は、そのよしあしは別として、誰もがごく自然に持っていて、私たちの毎日の人間関係はこの区分に従っていると見ることができる。つまり私たちは、自分が相手に期待することや、こちらが相手にすることもこうした区分に沿って生み出している。

ところが、当然のことだが、こうした区分は相手が私たちに感じているものとは違うことだってある。むしろ違うことのほうが圧倒的に多い。相手は明らかに私たちを、私たちが相手を見ているのと同じ区分で見ているのではない。これを思い知らされるのは、相手が私たちに向って、何かを言ったりしたりする時である。例えば親しい態度を期待したのによそよそしくされる、願いや要求などこちらの言うことを聞いてもらえない、相手のこちらへの扱いが期待通りでなかったりするなど、こちらが感じている、その人との距離とは違ったものを示される時である。
それに対してわれわれははじめて驚き、自分を悲しんだり、その相手に腹を立てたり、恨んだり、反感を持ったりとなる。昔から歌謡曲、演歌に取上げられるあの感情の世界である。人間関係のトラブルは、みなここから起るといってもさしつかえないだろう。

こうして自分以外の他の人との距離はもともと自分で一方的に決めているのだと考えれば、これは他の人も同様と認めざるを得ない。だから、それが行き違うことだって容易に考えられる。人間関係のトラブルの原因は、この互いの距離の認識の違いから起ることが多いようだ。