上野義道ホームページ-気持ちを整理する

人を見る目

料理修業のためにフランスへ行った日本の若者に向って、見習いに入った料理店の主人が「食材にはそれぞれの個性がある。ひとつひとつの食材と対話をしなさい。そうすれば、きっとその食材に最も合った調理の方法が見つかる」と言ったそうです。若者はその言葉に、調理の真髄を感じたそうです。

＜ここまで読んで、あなたはどんなことを感じますか？＞

奈良の法隆寺や、薬師寺金堂の修復を手がけて、「最後の宮大工」と呼ばれた故西岡常一さんも「木組みは木の癖で組め」と言葉を残しています。これも上の話と同じ意味を持っているでしょう。命のあるものはそれぞれが固有の性格／性向を持っているのだ、と理解することができます。

肉、野菜などの食材や木がそうであるならば、これは当然、生き物としての私たち人間にもいえることでしょう。人間もひとりひとりが違うのです。私たちはふだん「人間はひとりひとりがみな違う」とか、「みなが個性を持っている」などと、目にしたり耳にしたりする機会の多い割合には、そうしたことに重きを置いて生活していません。私たちは、目の前のその人にふさわしい応対をしているかどうかを、改めて自分にが問直す必要がありそうです。

＜ふさわしい応対とは、その人が最も好む応対と言う意味です。その人の最も好む「ふさわしい応対」をすれば、その人は自分の持っている能力を最大限に発揮することができます。＞

目の前にいる人と自分とが力を合せて何かをしようとすれば、このように人を見ることがどうしても必要になります。昔の人は同じことを言うのに、もっと単刀直入な表現で「馬鹿と鋏は使いようで切れる」と言ったものです。

＜これを見ると、昔の人は大切なことを伝えるために、誰にでもいちばんわかりやすい言葉を使ったことがわかります。ついでに言えば、自分で開けた戸を閉めることさえできない人に向って「下司の三寸、のろまの一寸、バカの開けっ放し」と罵った言葉が残っています。＞

以上ここまで見たことは、あなたが一人の相手と何かをしようする時に、とても大切なことです。これとは別に、もう少し相手の人数が増えて、二人以上の相手と一緒に、いわば全体でひとつの目的を達成しようとすれば、その時のやり方は当然違います。
これはまた別の機会に書くことにしましょう。■