上野義道ホームページ-高井戸だより

Ｘ月Ｘ日

昼食の後、近くの浴風園に行って「認知症予防」の講演を聞きました。
最近私の所属するNPOや,その周辺の「認知症」の扱いを見ていると、世間一般と同様に、誰でもかかるそうだとか、予防法がはっきりしないとか言いながら、あれこれともっともらしい事をやってうるさいことです。予防法がはっきりしないとなれば、交通事故みたいに先方から、しかも突然来るようだから、毎日の生活の中で認知症という「事故」に会わぬようにするにはどう安全運転したらよいかを知っておく必要があると、参加するこちらも、まあ交通安全講習会に行くような気持で出席しました。

講師は浴風会病院の医師で、新聞記者の経験があると紹介されました。はて、私は新聞記者の経験のある京都の禅僧を知っています。新聞記者は、小説家や評論家など文筆家のほかに、代議士や政府の役人、大学の先生などを出しているところを見ると、一種の人材供給源なのかも知れません。

閑話休題。会場には200名ほどの人がは集まっていました。後でわかったことですが、私のような素人ばかりでなく、看護師、介護の専門家やそれに近い人もいたようです。なるほど関心が高い。
120枚以上あるスライドを使った講演の内容は、発症の過程や認知症患者の行動の特徴など、私のような素人にもわかる部分と、症状の類型や治療方法など、専門家やそれに近い人向けの部分があったようですが、こちらにわからないところは専門化向けと思って聞いていました。そこで「認知症は防げるか」という疑問を持った私にわかった部分を中心に－というより、私にわかった部分だけを次に書いて見ます。

・認知症と脳の老化は違うそうです。
＜「『年のせい』と『認知症』の違いを理解しましょう」＞

・認知症とは病気。
＜記憶、見当識、判断などの知的働きが異常に低下した結果として現れる行動、精神異常などを総称した症候＞
＜記憶、記銘その他の障害から日常生活に必要な知的レベルがさがり、さらに進行する－つまり病気＞

・認知症は病気と身体の異常が脳に影響して生じる
＜アルツハイマーは1907年に認知症を見つけた＞

・大事なのは、体力を使うことや知的レベルの維持が生活習慣化して、維持されている人は、老化による脳の萎縮があってもぼけないことです。

・従って肝心の予防法では、これと言うもの（有意の関連性を示すもの）はまだ発見されていませんが、認知症も他のほとんどの疾病同様、発症は個人の生活習慣に根ざしたものと見られます。

・いま周辺に予防法として盛んに行われている「身体を使う」、「頭を使う」＜楽器の演奏、ダンス，囲碁など頭を使うゲーム＞は、上のような予防の可能性を持った「新説」として、最近登場したものです。

・摂取する食物にもふれました＜ブロッコリー、お茶、ブルーベリー、ゴマ、「酒はほどほどがぼけにくい」、赤ワイン（フランスボルドー大学の説）、カレー＞が、講師の発言は、むしろ一人ひとりの生理の違い（個体差）を重視していました。

予防法に関して会場で示されたデータは、研究の進んだ米国のものが多く、あまり身近ではありませんでしたが、「認知症は病気」と認め、「病気は防げる」とわかりやすいものでした。これは最後に講師のあげた「ぼけ予防のキーワード」はCDE＜C：身体を動かす（Cognitive Reserve）、D：食事に気配り（Diet）、 E：身体を動かす（Exercise）＞でもよくわかりました。そして、認知症予防には、人から強制されるのでなく、自分から進んでやることがいちばんよいそうです。その裏にはそれができない人はだめとの認識があるかも知れません。それなら、認知症予防には、まずめいめいが周りから強制されなくとも、好きなこと／続けられることを見つけるのがよいのでしょう。

私はこの文のはじめで、認知症を交通事故に例えましたが、われわれの周りに起る、ある意味では避けることのできない、精神や生理の変調から来る疾病、犯罪、老化、経済的な破綻などの苦痛をもたらものについて、警告や強迫まがいのものでなく、いろいろなことを中立の情報として知る機会がほしいと思います。認知症についても同様で、そうした情報をもとに、人は考えるようになるし、それをどう受け止めるかは、まさに自己責任になるわけですから。