上野義道ホームページ-高井戸だより

Ｘ月Ｘ日

毎年この時期になると、電車やバスの中でカレンダーを持った人を見ます。時には手にしたカバンから沢山の紙筒のあたまをのぞかせている人もいて、これは自分の会社のカレンダーを、得意先に配っている営業の人と分ります。買物に出ると、入ったその店でもらったりもします。カレンダーの贈答は、年賀状の準備などと同じ、新しい年への準備ですね。

カレンダーが手元に来ると、それまでは週単位や月々で考えていた毎日が、ほんの一瞬だけ、一年全体を見渡す、つまり過去と未来を見渡す、機会になります。私などにはほかに、夏の四萬六千日や、暮のお酉さまなどのお祭りがそうした一年の過去と未来を見渡させます。

私の家にも毎年、次の一年間使うのに十分な数のカレンダーが送られてきます。家の中５箇所で見えるようにしてありますが、それぞれに居場所が決っていて、このところ新しい種類のものは加わりません。家族共同の空間では、美術工芸品、珍しい写真、絵が美しいもの。文字中心で小型のものは台所、先の見える実用的なもの（とは何ヵ月かまとまって見られるもの）は、自室で必要です。どの年にも買うのは「野鳥カレンダー」で、「こんな写真がまあよく撮れるなあ…」と思うほど見事なものが、公募で選ばれた写真で見られます。

私の子供の頃は、一日一枚で、その日が数字で大きく見られる「日めくり」が大変な人気でした。小学校の教室にそれが掛けられていて、それを「めくる」のが当番の大事な役目だった頃がありました。子供が昨日今日といった日付の観念を身に着けるのはいつごろか知りませんが、その頃「もう幾つ寝るとお正月」と歌っていたのですから、小学校の低学年の頃なのでしょう。

カレンダーで忘れてならないのは、手元で予定の書込みに使うものです。今使っているQuo　Vadisはフランス製ですが、日本の祝祭日が漏れなく日本語で入っていて重宝です。アメリカの仕事仲間に教えてもらって、初めは一週間の毎日が24時間単位に区切られたものを使っていました。今はその必要がないので、一ヶ月が総覧できるものです。毎年11月が来ると、来年分を今年のホールダーに一緒にして、double-deckerにしています。

カレンダーは時間の使い方の目安になる道具ですが、実際の時間は各自の頭の中にあって、それを使うのが、個人の生き方というわけでしょう。「有効な時間の使い方」と言う本の広告があり、またそうした質問を時々うけますが、それに答があれば、それが私たちめいめいの短い一生に目指す時間の使い方をあらわしています。

毎月の予定を立てるのに、今は定型的な行事が多いので、各曜日ごとに書き入れます。学校の先生なども、同じようにしているのかと思うことがあります。以前は出張が多かったので、週単位に時間を使っていました。出張を入れる週とそうでない週です。それはそれで合理的だったのでしょう。

予定を入れてもその消化に無理を感じると、今でも一時的に混乱します。混乱するとは、それを何のためにしたか分らなくなることです。立てた予定を消化するとは、やったことが経験として自分の内に累積する（cumulate）、つまりこれからの役に立つことでしょう。それに対してまあ有効なのは、締切の決まっているものはそれを守ること、守れない締切のものは、約束しないで断ることと決めて、難を？逃れています。義理に振り回されずに、これができるのは、この年頃（昔は60歳、いまはおそらく70歳）でしょう。

時間を考えると予定のほかに過ぎた時間をどのように記録するかがありますが、それには日記をつけています。日記をつける効用は、その日を忘れずに口に出して言えることです。手で書かずに、記録したことを簡単に抽き出すのにその機能が役立つので、PCを使っています。最近では、誰に、何時、何処で会ったなどよりも、初鴬、初蝉、柿の取り入れなど自然との関りの覚えに役立っています。■<121609>