上野義道ホームページ-高井戸だより

Ｘ月Ｘ日

10月に入るとさすがに夏の暑さも影をひそめます。そうすると周りが急ににぎやかになって、いろいろな連絡や誘いが外から飛び込んで来る上に、自分も夏の間にしそびれていたことに気が向きはじめます。これは多分誰にもあることでしょうが、こうしていろいろな計画を自分の日程に入れて行くのです。

つい一ヶ月前ですが、10月の上旬に、私は多くの（多すぎる）予定を消化するのに追われました。まあ、珍しく忙しい思いをしたと言うことです。自分の予定を消化するのに、日常のルーティンを一部犠牲にしました。その意味で、生活のペースに影響が出たわけです。

忙しいのと、忙しいと感じるのは別物のようです。そのわけは、言うまでもなく、予定の消化能力に個人差があるからです。忙しいとは、限られた時間に多くのことをやるか、やろうとすることですから。自分にとっての、そうした予定の入れ過ぎを、私は戯れにオーバーブッキングと呼んでいます。以前はこのような忙しさを感じることがなかったのですから、これは年齢から来る生理的な能力変化の一部でしょう。たとえ生理的な能力が追いついても、予定はその時に応じて自分がそれに耐えられる適正量を入れないと、いろいろな点で大変なことになります。

いまの私は「予定をいかに効率よく消化するか」よりも「いかに効率よく予定を立てるか」の方が大切なことがよく分っています。「効率よく」とは、たてた予定を後に述べるような形で消化できることです。反対に予定の入れすぎは、消化不良を招くのですから、いずれにしても生理的にバランスを失うから、そんな状態が永続きしないことには間違いありません。立てた予定を消化するとは、やったことが経験として自分の内に累積する（cumulate）、つまりこれからの役に立つことを指します。

予定に追われると、身内の墓参り、乗用車の点検、眼鏡の調整、エアコン取付け、結婚祝いの発送など身の回りのことはただ済ませるだけです。日用品や20年ぶりの五万分の一地図、来年の予定表、CDや本などの買物も手元に買ったものが残るだけ。集会や講演会、NPOの例会、同級会の打合せ、親しい友達との会合、それに素晴らしい「皇室の名宝」展も、食事も、そこに「顔を出した」だけみたいですから、上野公園の宵闇も、表参道の秋の陽も味わうことができません。
どうしてこんなことを書くかといえば、今の私にとって手に入れることのできる余裕とは、することひとつひとつを味わうこと－生きている実感をつかむことだからです。

久しぶりで忙しい時間の使い方をすると、まるで競争のようにして本を読んだ学生時代、海外に出張で空港→ホテル→仕事先だけを廻っていた頃に逆戻りするようなものです。これでは急いで食べた物が身にならないのと同じで、少しも豊かになりません。これを防ぐには、自分なりの予備日を頑固に確保するとか、季節や暦の変化で生活のペースを変えないことなのでしょう。

それにしても先週の庄内地方への小旅行は、余韻を味わうこと、考えることができた最近の収穫で、先月のあわただしさ埋め合わせができた気持です。■<111609>