上野義道ホームページ-「いまさら英語？」と言う人へ

旬を楽しむ

生活を楽しむことができるとすれば、それは自分の毎日に意味を感じながら時間を過ごすことだと思うようになった。
生活は時間の流れの中で送るものだから、自分がいま何をしているか、これから何をしようとしているか、と自分の手の届く範囲内で時間を意識することが大事になる。時間を意識するとは、その流れを量として、また時間の流れがもたらす経過を質と見て、それに人が手を貸す形で時間を過ごすことができれば、いかにも人間らしい営みとなる。
時間は点ではなくて線で意識される。つまり、今の時間の上にやがてやってくるもの＜小学唱歌「もういくつ寝るとお正月」がそれを表す＞、そして去るものだから、その時その時が運んでくるものを楽しむのが最善だろう。味覚は時の流れが運んできた旬のものを、視覚は時の流れが運んできた旬の花を賞でるのが人間本来のありようと言える。人間の生理にも旬があるから、食物が食べごろになる時には、身体もそれを味わう用意ができているはずだし、旬の花を賞でる用意も、その時期に人間生理に備わると見てよいだろう。
前もって事に備えるのは大切だが、それがこうじて時間の先取りに走るのは空しい。同じ備えるなら、今ここですべきことを十分しながら、その延長上にあることを意識しながら備えるようにしたい。「ひな祭りが終ったら五月人形」ではないし、秋口からクリスマスと騒がない＜歳事の前倒しは、個人生活の便利さや効率とは全く関係がない＞。会議は時間通り始めて時間通り終る＜時間通り終るとわかっていれば、密度の高い話合いが期待できる＞。予期以上に大勢が集まったからといって、催し物会場の開門の時間を繰り上げたりしない＜来場者が何を求めて来ているのかを知れば、開場時間を早めるのは、来場者には何の意味もない量と質の混同ということになる＞。こうして、やがてやってくる時間を楽しみに待つ間に、情況は熟し、病気は去り、人生は熟す。

私たちは、便利なものを使うことが必ずしも豊かさにつながらないことを十分に知っている。前倒しされない時間を不便と感じるのは易しいが、その結果は何に対しても不満を持つようになる。何に対しても不満を持つ人間は、どこでどんな暮らしをしようとただの貧乏人だ。

このように「旬を楽しむ」のをスローライフと呼ぶのなら、いちど立止まって、考えてみる価値があるのではないだろうか？

＊旬＝魚、野菜、果実など出盛って、味が最もよいとき。転じて、物事を行う最適な
（optimum＝best possible; producing the best possible results）時期。