上野義道ホームページ-環境問題は難しい

環境問題は難しい

以前にも触れたことだが、環境問題に取組むのはむつかしい。そのわけは、環境問題に正面から取組むのは、これまでの人類の歴史が生んだ基準からすれば、大勢の人に認められる勇ましい行為、進歩の証などからは程遠いから。

例えばこんな具合だ。
2020年までに達成すべき温室効果ガスの削減目標をめぐって、この春朝刊各紙に、主要経済団体が連名で、「裏付けのない過大な削減には国民全体に大変な痛みが伴う」、「（90年比）３％削減でも１世帯あたり約105万円の負担」などとする意見広告を掲載した。これに対して環境大臣は記者会見で、「大変悲しい。産業界の本気度が疑われる」と批判したという。
また最近では、経団連の日本の世界環境基準に関する回答内容が「諸外国に対して恥ずかしい」と、またも環境大臣の反発を呼んだ。この場合恥ずかしいとは、国交のある国々に、わが国の国家行動の二重性が印象付けられるこことだ。国際社会をリードする国は、国交のある国々に違和感を与えてはならない。

このように環境問題に関しては、近隣のゴミ集め対策から地球温暖化防止策に至るまで、各層の意見の乖離はすさまじい。これには何を考えの軸に置くかの相違もあるだろう。
人間の進化の歴史を思い出すと、その転換期には考えの軸（Paradigm）の転換が大きな役割を占めていたことに思い当る。60余年前に占領軍がした公職追放は、それまで日本のリーダーたちが捉えられていた戦時態勢の考えの軸からの脱却に、それなりの成果をあげた。いま日本人、特に経済人が捉えられているのは、高度経済成長期の考え方の軸だろう。60年後の今日、我々はかつての占領軍のようなものではなく、自分の手で考えの軸を変える工夫が必要だ。

次の挿話はそれを考える上で、多少のヒントになるかもそれない。
イギリスにある町があった（そして今もあるに違いない）。その入り口には300年以上を経た樫の並木道があって、訪ねた人をその村へと導く。茅葺きの屋根、青々とした牧草地に群れる羊――それは典型的な英国の田園風景だ。
1990年に郡当局から通達があった。町の入り口の道は、狭くて現代の交通事情に不向きだから拡張の必要がある。ついては両側の樫の木を伐採しなければならない、と。町の人々はこぞって、われわれの樫の木を切るなんてとんでもないと反対して、当局と議論に議論を重ねた。そしてとうとう妥協に行き着いた。それによれば、郡当局は今の樫並木に沿って、両側10メートル奥に新たに苗木を植えてよい。そしてその苗が、多分200年ほど後に、今の樫と同じ大きさに育ったら、今の樫の木を伐採して道路を建設する－と言うものだ。■